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-化石の星-

ウロ:「ところで......`化石の星`の記録は
    キミに見せた事があったかな?」
 レッサー・ウロ教授は士官候補生のセナに聞いた。
セナ:「いや....記憶にないけど?どんなの?」

 ウロ教授はいつものように、もったいぶった様子で記録をひきだす.........。

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 むかし、全トーア系銀河連合の親善大使・ゴア王子を乗せた船が、貧しいミル・イルの星系に大気調整装置と種子3000種を届けに向かう途中、ジャイロの故障で惑星オドンに墜落。
 生き残ったのはゴア王子とパイロット端末のイーディだけ。ゴア王子は重傷を負い、エマージェンシーポッドの中で瀕死の状態。

ゴア王子:「イーディ.....ありがとう。私はもうダメだ。」
イーディ:「しゃべらないでください。血圧が下がります。」
ゴア王子:「種子は...タネは.....無事か?」
イーディ:「95%が焼失しました。装置も一回しか使えません。」
ゴア王子:「........この惑星の大気組成は.....?」
イーディ:「今計算します....体積比、酸素20:窒素77.2:
      アルゴン1:二酸化炭素0.03......その他水素、
      ネオン、クリプトンなどが識別されます。」
ゴア王子:「確認できる生物は?」
イーディ:「いません。完全な死の星です。」
ゴア王子:「大気調整装置が有効に作動した場合....
      生物は繁殖しうるだろうか?」
イーディ:「理論的に可能です。
      しかしエマージェンシーポッドのエネルギーを
      使い果たす事になり......
      王子の生命維持装置は作動停止します。」
ゴア王子:「.......イーディお願いだ。
      大気調整装置を作動させてくれ....
      どうせ僕は長くない。大気が安定したら
      残った種をこの星に蒔くんだ.......。」
イーディ:「それはできません。王子が死んでしまいます。」
ゴア王子:「良く聞いてくれ。僕の体はもうすぐ死ぬ。
      でも僕の心はこの星と一体になる。
      この星に生命が生まれて.......この星は僕になる。」
イーディ:「理解できません。命令は無効です。」
ゴア王子:「それでは......僕の死亡を確認後、体はこの星に
      埋めてくれ。その後大気調整装置を作動。
      大気安定後に残った種を蒔く。
      それで君の仕事は終わりだ......これでいいかい?」
イーディ:「........確認しました。ただ.......」
ゴア王子:「ただ.....?」
イーディ:「死なないでください.....一人は怖いです……」

 王子は少し笑って、しばらくして息を引き取った......

 一人残されたイーディは、王子の体をオドンの乾いた大地に埋めると大気調整装置を作動させる。運良く機械は正常に作動し、数万年後、初めての雨が降り出す。雨は一万年降り続き、やがて海と陸ができる。大気が安定し、生物が十分繁殖しうる事を確認してからイーディは種を蒔き始める。
 イーディのバッテリーはこの頃には寿命を迎えていた。
 種を蒔き終えたイーディは、王子を埋めた場所に戻り、そこで力つき機能を停止した。
 さらに数万年後、新たな生命が誕生。順調に進化をし続けている..................。

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ウロ:「現在`楽園のオドン`と呼ばれている星の
    生成秘話じゃ..。イーディの記録が王子の化石と共に
    回収されたのはつい最近のコトじゃがね。
    イーディがなぜ最後に王子の元に戻ったかは
    謎なんだな....これが。」
セナ:「帰巣回路が働いたんじゃないの?
    その頃のA.I.(人工知能)ってそーいうのが
    ついてたんじゃなかったっけ?」
ウロ:「あるいは.......これが`愛`というのかもしれぬな。
    人間のいない今となってはこーいう記録からしか
    研究は出来ないのだよ実際....」
セナ:「私達が何万回演算したところで解釈は出来ても
    `実感`は出来ないのかもねー。」
ウロ:「うーむ。疲れたな.....今日はこれまでにしようかの...」

 二つのA.I.は回線を切った...........................



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