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=======空き家========

 少女は森に迷い込んでいた。高い針葉樹の森。
カラス達が不気味に叫んでいる。雨........。
雨はシャワーの栓が壊れたみたいに降り注ぎ、激しく森の木々を叩く。
少女は走り出す。しばらくすると小さな小屋が視界に入る。
戸は半開き。少女は迷わず駆け込む。

 小屋の中では暖炉があかあかと燃え、部屋全体を赤く染めている。
樫の木の壁、樫の木の窓枠、樫の木のテーブルが一つに樫の木の
椅子が二つ。そして少女の背丈より大きな古びた置き時計が一つ。
文字盤の時針は壊れ落ちている。それでも振り子は時を刻み続ける。
大きなぬいぐるみのクマが椅子の一つを占領し、少女に話しかける。

「あーあ.....すっかり濡れちまって....暖炉で乾かしなよ....カゼひくよ。」
「ここは......どこ?」
「おもしろいコト言う子だね....ここは家だよ....ボクの家であり...
 キミの家でもある。」
「わたしの......家?」
「そうさ......ここは長いこと空き家だったんだ。キミは久しぶりの
 お客さん......。ゆっくりしなヨ。あ、ココアを入れてあげる。」

 少女は暖炉のそばであかあかと燃え続ける炎を見つめながらクマの
入れてくれたココアをすする。全身があっという間に暖まり心地よく
なってくる。髪の毛についた水滴がパチッっと弾ける。うとうとと
しているうちに部屋全体が回転しているような感覚になる。

 少女はいつものようにバスを待っている。しばらくするとバスが
やってくる。バスは同じように制服を着た学生でいっぱい。
バス停で止まり、バスのドアが開く。運転手は無表情。すし詰め
状態でバスは走り出す。学校前のバス停でバスが止まる頃には、
窒息しそうになる。ゆっくりと人の流れに乗り教室へ。授業の始ま
るのをじっと待つ。先生が教室に入ってきて授業が始まる。
授業はとても退屈で眠ってしまう..................。

 鈍い音がして少女は目が覚める。部屋の中に得体の知れない
何かがいる。金色の宇宙服を着た宇宙人。体の三分の一を顔が
占めている。サカナのような顔。細い手足を絶えず動かしている。

「今日はずいぶんと客の多い日だな.....お前さん何か用かい?」
「いや.....別に。こんなトコで漂流物を見つけるとは珍しいので
 ね.....お邪魔した。」
「漂流.......?ここは森の中でしょ?」
「おやおや.....この子は気がついてないみたいだよ......
 窓の外を見てごらん.....」
「なによ....これ.....どうして外は宇宙なの....?」
「さて....?わたしに訊かれても...ね。では、さようなら。」
「待ってよ......」

 宇宙人はそそくさと小屋から出ていく。少女は追いかけ戸
を開けようとしたが開かない。しばらく戸と格闘して開かない
ことが分かったので、あきらめて椅子に座る。大きな置き時計は
相変わらず耳障りに時を刻み続ける。少女はココアをすすりな
がら落ち着いて考えをまとめてみる。クマは心配そうに少女を
見つめている。

「これは....夢..なんでしょ?でなければこんなコトありえない....」
「夢?キミはここを夢の世界だと言うのかい?......もしそうなら
 キミはいったい誰なんだい?」
「わたし?.......わたしは.......」
「ほら.....ほら.....ね?キミは自分のコトも分からないんだ。
 そうだ.....ここを夢の世界だと言うなら寝てごらん.......
そうすれば夢かどうかはっきりするだろう?」
「...それもそうね......じゃあもう寝る..........」

 少女はいつものようにバスを待っている。しばらくするとバスが
やってくる。バスは運転手しか乗っていない。バス停で止まり、バス
のドアが開く。運転手はのっぺらぼう。ほかに誰も乗らず、バスは走り
だす。学校前のバス停でバスが止まる頃には、窒息しそうになる。
ゆっくりと誰もいない廊下を歩き教室へ。少女のほかに誰もいない教室。
授業の始まるのをじっと待つ。先生が教室に入ってきて授業が始まる。
先生はのっぺらぼう。授業はとても退屈で眠ってしまう..............。

 少女は目が覚める。目の前にはクマ。悪寒がする。
入ってきたはずの戸がなくなっている。少女は怖くなり
出口を探し始める。置き時計は相変わらず耳障りに時を
刻み続けている。

「ふん......出口なんかないよ。そもそもここはキミが作った
 世界じゃない・ゥ。キミが本当に望んでいるのはここ.....
 ここだけがキミの存在できる世界なんだ。いいかげん
 認めなよ。ここにボクと一緒にいようよ.....永遠に。」
「違うわ!」
「.....あーあ。出口を見つけたようだね.....でもキミにそんな勇気が
 あるわけないね。あきらめなヨ。」
 少女は窓に飛び込む。ガラスが砕け散り少女は二階の自分の
部屋から落ちる.................

 目が覚めると、顔がじゅうたんの上にあることに気がつく。
ベットから落ちた少女は、すこし首を寝違えた。
目覚まし時計を見る。電池が切れたみたいで止まっている。
壁掛け時計は起床一時間前を示している。まぶしい朝の日差し
はいつもより新鮮に感じる。カーテンを開けて二階の部屋の
高さを確かめると、急におかしくなりくすくす笑い出す。

「わたしにだって.....少しは勇気があるのよ....。」

そう言いながら、まだ眠い少女はベッドに潜り込んだ........

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Story By Baron.MoMonga 2000.
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